orange

こんな気持ちを抱いていたってどうしようもないというのは分かっているのだけど、そのおかげで毎日会社に行くのが楽しみになっているというのも事実なのだった。

誰に対しても気さくに接する人だから、私はただのいち社員に過ぎないし、たまに出てくる好意的な発言も「若い女性社員にちょっかいをかける無様なおじさん」をネタとして演じているに過ぎない。
過ぎないはずなのに、その度に意味を探してしまう。だって、探すのって楽しい。でもそれだってごっこ遊びに過ぎなくて、本当に意味なんてないんだ。

話しかけられるとうれしくて、特別かもしれない論証を立てたくなって、そんなのありえるわけないじゃんって急に冷静になって、虚しくなって、もう話しかけてこないでって思う。
それなのにやっぱり話しかけられるとうれしくて、少しでも長く話したくて、ぎこちない質問をして、不自然すぎだったなってあとで恥ずかしくなる。

行ったり来たり、ふらふらする感情に疲れつつも、日々は確かに彩られている。

前髪をきれいに整えたり、その日の服に合わせてメイクを変えてみたり、自分をかわいくお手入れすると、もちろんその人のためではあるんだけど、自分自身を大切に扱うことにもなって、なんだかメンタルが良い。

大学生のうちにまともな恋愛をしたかったと今になって思うのだけど、あの頃の私にそんな余裕などなくて、日々生きながらえるので精いっぱいだったのだ。
それが今、こんなにも他人に心を動かされて、明日はどんな日になるだろうかとわくわくしながら1日を終えていることは、とんでもない幸福に思える。

「日記サイト」と書いているが、ご覧のとおり、こんな調子のことしか書かない。
サーバーの契約はひとまず最短期間にしておいた。こんなサイトずっと続けるつもりはない。
小樽に行ったらガラスのアクセサリーを買おうと決めていた。
せっかくなら、明日つけていけるものが良い。ブルーのパーカーを着る予定だから、オレンジが似合うんじゃないかしら。
だんだんと日が暮れていく中、優しい明りの灯るガラス雑貨のお店にふらっと入った。

じっくりとディスプレイを見ていくと、1つ、目を引くものがあった。オレンジのまあるいガラスのイヤリング。中には針金で作られたハートが入っている。左右で少しだけ色味が違うのも良い。台紙の裏に書かれた値段を確認しようと、手に取ってみる。
目に入ったのは数字ではなくて、イヤリングの名前だった。

恋模様 オレンジ

こいもよう。なんて言われたら、思い出さずにいられない。どうしてもこれを買わなきゃと思った。
このイヤリングをつけて、明日を過ごしたい。このイヤリングをつけて、お話したい。このイヤリングをつけたら、お話できるんじゃないかしら。
願掛けのようなおまじないのようなそんな効力を期待してしまったのだ。我ながら笑ってしまう。

最終日。飛行機に乗って、空港について、バスに乗る。Oさんと旅行をふりかえって、やばかっただとかやばかっただとかやばかっただとか話をする。バスが会社に着く。幹事の方や添乗員さんが挨拶をしてから、解散となる。みんな、近くの人に挨拶をして帰っていく。最後の挨拶くらいしたいなと思ったけど、遠くでおじさまたちは集まって話していた。もうだめだ。帰ろう。車に向かって歩き出した時、遠くのその場所から「橙さん気を付けて帰ってね」と声をかけられた。泣きそうだった。その後も車の窓から何か声をかけてくれた。おつかれさまでしたとバカでかい声で言った。旅行は終わった。

ゆらゆらゆらゆら。オレンジが耳元で揺れる。あの人は少しでも見てくれたのかな。

橙(だい)と申します
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